因幡うどん ソラリアステージ店 ごぼてんうどん

福岡に転勤が決定した。

上京して10年。このままなんとなく東京にいるんだと思っていたのに。

独り身で断る理由も無く、恋人すらいなかったのでなにも面倒なこともない。

内示がでて次の週には下見に来ていた。

 

飛行機から降り立ち、地下鉄で10分もしたら天神にいた。

コンパクトな土地なのだと思う。

地上に出てぼんやり周りを見回していたら

天神コアの無数の瞳に威嚇されている気分になった。

空腹を覚えてうろうろする。

無難なところでラーメンなのだろうけれど、どうにも豚骨が苦手だ。

ふと、たしかタモリがうどんがおいしいといっていたのを思い出す。

googleマップでうどんを検索する。

東京のままになっていたmapが現在地を探して、ぐいーんと南下する。

こんなに移動したのか。

地下に因幡うどん、といううどん屋を見つける。

なんか見覚えがあるなあと思ったら、松尾スズキがよくエッセイに書いていた

FAXでしか通販していないうどん屋だった。

 

因幡うどんにはメニューがたくさんあった。そばもある。

一番人気らしいごぼてんうどんを注文する。

ごぼてん、といわれると練り物かとおもうけれど

純粋に野菜のごぼうをかきあげにしたものらしい。

テーブルにはざるに青ねぎが入ったざるがおいてある。

ありそうでなさそうなサービス。

しばらくしてやってきたごぼてんうどんは、

きれいな出汁に見るからに柔らかそうな麺が浮かんでおり、

その上にふんわりしたかき揚げが鎮座していた。

麺をたぐって持ち上げるとぷちぷちと切れた。

昨今の讃岐うどんに慣れきった身としては驚愕の光景だ。

短くなった麺をずるり、とすする。

麺はやわやわとして、いりこの出汁をたっぷりすっている。

 

やさしい。

 

福岡の初めての味はとてもやさしかった。

ありがとうタモリさん松尾さんと思う。

なんとなく歓迎されている気分になっている自分に気づく。

やわらかいうどんの国でなら何とかなるだろうかと

まったくわけのわからないことを思いながら

かけ放題のねぎを追加し、いりこのだしを飲み干した。

 

なんとなくやる気になって地上に戻ったら未曾有の土砂降りだった。

やっぱり歓迎なんかされていないのかもしれない。

 なけなしのやる気はしなしなと、かき揚げのごぼうの様に縮こまった。